乳がん・卵巣がんは遺伝する?

産婦人科医長 小川 紫野
乳がんや卵巣がんは、遺伝と関係することがあることをご存じでしょうか。今回は、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)について、遺伝専門医である小川紫野医師に話を聞きました。
Q1. 遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)とは何ですか?
遺伝性乳がん卵巣がん症候群(Hereditary Breast and Ovarian Cancer syndrome, HBOC)は、BRCA1またはBRCA2という遺伝子に生まれつき変異があることで、乳がんや卵巣がんを発症しやすくなる遺伝性の病気です。一般的な乳がん・卵巣がんのうち、およそ5~10%はこのHBOCに関連していると考えられています。
HBOCの方は、若い年齢で乳がんを発症したり、両側の乳がんになったり、卵巣がんを発症したりする傾向があります。また、男性でも乳がんになるリスクが高くなることや、前立腺がん、膵臓がんのリスクが高まることも知られています。
Q2. どんな人がHBOCの可能性があるのですか?
以下のような特徴に当てはまる方は、HBOCの可能性があると考えられます。
- 45歳以下で乳がんと診断された。
- 両方の乳房または片方の乳房に2個以上の乳がんを診断された(同時または別々の時期)。
- 男性で乳がんと診断された。
- 卵巣がんと診断された。
- 家族に乳がん・卵巣がん・膵がん・前立腺がんなどの患者が多い。
これらに該当する方は、専門の医師と相談の上で、遺伝カウンセリングや遺伝子検査を検討することが勧められます。
Q3. HBOCと診断された場合、どのような対策がありますか?
HBOCと診断されたからといって、すぐにがんになるわけではありません。予防や早期発見のためのさまざまな選択肢があります。たとえば、乳がんに対しては、定期的なMRI検査や超音波検査による精密なフォローが可能です。また、希望に応じて予防的な乳房切除や卵巣・卵管切除といった選択もあり、リスクを大きく減らすことができます。
がんになった方でも、治療法の選択に遺伝情報が役立つことがあります。最近では、BRCA変異に対して効果がある薬(PARP阻害薬)なども登場しており、診断・治療の両面で意味がある情報といえます。
Q4. 遺伝子検査は受けるべきでしょうか?家族にも影響があると聞いたのですが。
遺伝子検査を受けるかどうかは、十分な説明とご本人の意思を尊重して決めていきます。HBOCは家族性のものなので、血縁者の方にも情報を共有することがありますが、それもあくまで本人の同意をもとに行われます。
検査を受けることで、将来に向けた対策を前向きに考える材料になります。私たち遺伝専門医やカウンセラーは、その方の人生観や価値観に寄り添いながら、検査の意義やリスク・ベネフィットを一緒に考えていきます。
Q5. 最後に、患者さんへのメッセージをお願いします。
HBOCは「がんになる可能性が高い遺伝的体質」を知るための手がかりです。怖い話に思えるかもしれませんが、早期に知ることで、備える選択肢が広がります。もしご自身やご家族に思い当たることがあれば、どうぞ一度ご相談ください。