大動脈弁狭窄症は高齢者でも治療できる時代に
循環器内科医長 杉浦剛志
大動脈弁狭窄症は、心臓の出口の逆流防止のための弁が開かなくなり心臓に負担がかかる病気です。症状が出現すると予後は非常に悪く、致命的な病気でもあります。人工弁に置換する手術以外に有効な治療はないのですが、高齢となってから発症するため、多くの患者さんが手術治療を受けることができませんでした。近年、低侵襲のカテーテル手術での弁置換術が可能となり、高齢者でも安全に治療することが可能となりました。その治療に積極的に取り組んでいる一宮市立市民病院杉浦剛志医師に話を聞きました。
Q1. 大動脈弁狭窄症の症状にはどのようなものがありますか?
症状としては、典型的には3つの症状があるとされます。胸の圧迫感や締め付けられるような鈍痛の発作である「狭心症」症状、意識を失ってしまう「失神」症状、労作時の息切れや、むくみなどの「心不全」症状などです。こうした症状が出現すると予後は非常に悪く、突然死することもあります。ただし、この病気の多くは高齢者で発症し、胸の症状や息切れ症状などを「年のせい」と思ってしまうことや、弁の狭窄は突然悪くなるのではなく少しずつ悪くなるため症状も少しずつ悪くなり、本人も家族も気づきにくいといった理由で発見が遅れることが多いという点に注意が必要です。
Q2. 大動脈弁狭窄症の治療法について教えてください。
基本的に治療法は3つ考えられ、ひとつは薬物治療ですが、これは有効性が認められた薬剤はなく残念ながら多少の症状の緩和が期待できるのみです。根治術としては弁置換術のみが有効であり、これには開胸外科手術とカテーテルを用いた経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI、タビ)の2つがあります。外科手術は確実性が高いものの、心臓を停止させる必要があり体への負担が大きいことが問題です。カテーテル手術であるTAVIは体への負担は非常に少ないですが、合併症によっては緊急の開胸手術が必要となる場合があり、基本的には外科治療が困難な患者が対象となります。
Q3. TAVIの合併症にはどのようなものがあるのでしょうか?
カテーテル手術の一般的な合併症である出血や脳梗塞などの塞栓症のほかに、弁輪部の破裂や心臓穿孔、ペースメーカーの手術が必要となる徐脈性不整脈、留置した人工弁の脱落や感染などがあげられます。これら合併症の発生率は日本のデータでは約6~7%程度、死亡率は1~2%とされます。これは外科的手術のできない高齢者を対象とした数値ですので、その危険性は低く、安全な手術であるといえます。
Q4. 体の負担はどのくらいですか?
90%以上の患者さんで、カテーテルは太ももの付け根の動脈から入れていきます。一番太い管を入れる部分も傷口としては1cm程度の傷ですみます。手術が終了して5時間後には座って食事をとることができ、翌日には手術前と同様か、より楽に歩行することができます。
Q5. 最後に、患者さんへのメッセージをお願いします。
高齢者の治療の難しいところは、いかに体力を落とさずに治療できるかというところだと思います。しかしながら、治療が遅れることによってもともとの体力が大きく低下してしまい、その後心臓を治療しても体力は回復できないということもあります。実際に、治療を一度拒否して、その後治療を受けた患者さんは、最初から治療を受けた患者さんよりも予後が悪くなるといった報告もあります。大切なことは症状を年齢のためと決めつけない、治療できる病気を見逃さない、そして、治療のタイミングを遅らせないことです。