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ドクターインタビュー

突然やってくる心肺停止

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ICU部長(循環器内科) 谷口 俊雄

なんらかの原因で突然心臓の拍動や呼吸が停止してしまうことがあります。そのような患者さんの蘇生に積極的に取り組んでいる一宮市立市民病院谷口俊雄医師に話を聞きました。

Q1. 心肺蘇生について教えてください。

循環器疾患は急激に全身状態が悪化し、ごく短時間で心停止にいたることもあります。そのような場合でも早期に適切な治療を提供することで心機能が回復して全身状態が改善されるのが特徴であり、我々の循環器内科医のやりがいでもあります。しかし、なかには例え最速で最善の治療を行ったとしても心機能が回復せずに状態がどんどん悪化して心停止にいたる場合や、病院到着前に心臓が停止してしまう場合もあります。心肺蘇生を継続しても自己心拍が再開せずにお亡くなりになってしまうこともあります。また、仮に自己心拍が再開しても長時間脳への血流がなくなることで重篤な脳障害を起こし、元の状態まで回復できない場合もあります。

Q2. 心肺蘇生を行っても心臓が動かない時はどうするのですか?

このような最も重篤な状態で効果を発揮するのが補助循環装置です。皆さんも体外式膜型人工肺(ECMO)という言葉を聞いたことがあるかもしれません。そもそもコロナ感染症などで重症の肺炎を起こした場合に、自己の肺のかわりをしてくれる機械なのですが、これを応用することで肺だけでなく心臓の働きもサポートして人工心肺として使用することも可能です。このECMOを用いた心肺蘇生は、通常の心肺蘇生(CPR)に対してECPRといいます。当科では通常の心肺蘇生で蘇生困難な難治性心肺停止症例に対し、ECPRを積極的に導入しています。

Q3. ECPRはどのような治療なのですか?

ECMOは体の奥にある心臓まで血管を通して太い管を2本挿入しなければいけないため、安全に行うためには放射線透視装置のある心臓カテーテル室でECPRを行います。ECPRが必要と判断した場合には通常の心肺蘇生に加え、カテーテル室までの移動、ECMO装置のセットアップと管理、透視装置の起動と操作、そしてECMO導入手術を同時進行で安全かつ短時間で行わなければいけません。

Q4. ECPRは簡単にできる治療なのでしょうか?

早期の全身循環の再開が唯一脳障害の進行を止めてくれるのですが、ECMOを導入するまでには時間がかかるので、その間にどんどん脳障害は進行してしまいます。そのためには一刻も早くECPRを施行してECMOを開始させなければなりません。そのためには循環器内科医だけではなく、看護師・臨床工学技士・放射線技師など多職種間の連携が必要不可欠となります。そしていつECPRが発動しても対応できるように平時から定期的にECPRトレーニングを行っています。

Q5. ECPRトレーニングの内容について教えてください。

内容としてはECPRおよびECMOの勉強会を全スタッフに定期的に行っています。勉強会終了後に各職種別に個別トレーニングを行い、最後に全職種合同で実際に模擬患者を使ってECPRのシミュレーションを行います。ECMO装置、人工血管モデル、透視装置を用いて①患者急変→②CPR開始→③ECPR発動→④スタッフ招集→⑤カテーテル室起動→⑥ECMO装置のセットアップ→⑦患者搬送→⑧ECMO導入といった一連の流れをシミュレーションします。

Q6. ECPRECMOを導入したら治療は完了するのですか?

もちろんECMOを導入して治療は終了するのではありません。引き続き心停止の原因となった原疾患(心筋梗塞など)への治療を行うとともに、心停止による脳障害に対して有効な体温管理及び脳循環管理をカテーテル室の段階から速やかに開始していき、その後の集中治療管理へ継続していきます。

心肺停止は突然身近な人に起こりえます。通常の心肺蘇生だけでは救命できない場合もあり、仮に蘇生されたとしても多くの場合脳に重篤な障害が残ります。心肺蘇生ではなく心肺脳蘇生を目指し、日々多職種で連携してトレーニングを重ねることでこのような事態に対応し、市民のみなさんに最善の治療を提供できるよう努めています。

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