その「もの忘れ」、本当に年齢のせいですか?
脳神経内科部長 田村 拓也
認知症は私たちにとって身近な病気であり、人口の高齢化とともに増加しています。一宮市立市民病院田村拓也医師に話を聞きました。
Q1. 注意しなくてはいけない「もの忘れ」はどのようなものか教えてください。
人は誰でも年をとると記憶力が衰え、もの忘れが増えてきます。友人と会う日はいつだったか忘れたり、買ってきたものをどこかに置き忘れたりなど、みなさんも経験があるかもしれません。単なるもの忘れでは、「友人と会う約束をしたこと」や「ものを買ってきたこと」は覚えており、自分が忘れているという事実に対して自覚があり、しばらくすると思い出せたりもします。このように、過去の出来事の一部のみを忘れる、忘れたことに自覚がある、自分の力で思い出すことができるなどが加齢によるもの忘れの特徴であり、日常生活にあまり支障はないものです。
一方で、友人と会う約束をしたこと、ものを買ってきたことなど出来事の全てを忘れている場合や忘れたことに自覚がないような場合には注意が必要です。「約束を守れなくなる」、「よく物をなくす」、「同じことを何度も話す、または何度も相手にたずねる」などは認知症の始まりの症状である可能性があります。
Q2. 認知症とはどのような状態ですか?
認知症は病気の名前ではなく、症状をあらわす言葉です。認知症とは一度正常に発達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態を指します。多くの場合は軽度認知障害(MCI)という認知症でも認知機能正常でもない段階を経て認知症になります。MCIとは認知機能の低下が実際にあるものの、基本的な日常生活には支障のない状態です。
人口の高齢化にともないわが国の認知症の人は増加しており、厚生労働省研究班による推計では2025年には認知症の人は高齢者の20%程度(約700万人)にも達することが予測されています。認知症になる原因として1番多いのが、アルツハイマー病で原因全体の6割から7割を占めます。アルツハイマー病では脳の中に「アミロイドβ」、「リン酸化タウ」と呼ばれる有害なタンパクがたまり、ゆっくりと脳細胞が破壊されていきます。脳の中でも記憶をつかさどる海馬を含む側頭葉内側が早い段階に障害されるため、初期の症状としてもの忘れが多くみられます。
Q3. 認知症が心配になった場合はどうすればいいですか?
認知症にはアルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)以外にも血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などいろいろなタイプがあり、それぞれ治療法が異なりますので、正確な診断が必要です。また、一見、認知症のように見えてもうつ病やてんかんなど他の病気である可能性もあるので、まずはしっかりと専門家の診断を受けることが重要と考えます。
認知症はある程度進行してしまうと対応が難しくなりますが、MCIの段階では年間で5~15%の方が認知症になってしまうものの、逆に年間で16~41%の方は認知機能正常に回復するとも報告されており、より早期に適切な対応や治療を行うことで、認知機能の維持や改善、症状の進行を遅らせることが期待できます。
認知症やMCIの方の多くは自分のもの忘れに自覚がありませんので、家族や周りの人が早く異変に気づいてあげることが重要です。日常生活の中で認知症やMCIが心配になった方は、安易に年齢のせいだろうと自己判断せず、お気軽に専門家であるわたしたち脳神経内科にご相談ください。