概要
当科では外科の中でも乳がんをはじめとした乳腺疾患および、甲状腺・副甲状腺・副腎といった内分泌疾患に対する診療を行っています。乳がん診療においては、日本乳癌学会が発行している「乳癌診療ガイドライン」に基づいて診断,治療を行っています。ただしガイドライン自体が、私たち医療者と患者さんの共通理解のもとで、個々の人生観、価値観に合わせた方針決定(Shared decision makingといいます)をする目的で作られています。
例えば、手術の際に乳房を温存することについて、乳房を残すと残した乳房からまたがんが再発するかもしれないというリスク(不利益)があります。それに対して乳房を失わずに残せるというメリット(利益)があります。リスクは私たち医療者が提示しますが、メリットは患者さん一人ひとりで思いが異なります。よって個々の患者さんのニーズに合わせた満足度の高い治療を目指しています。
当院はがん診療連携拠点病院として質の高い乳がん診療を行っていくのと同時にがん相談支援センターや乳がん看護認定看護師と連携して一人一人の患者さんに寄り添ったチーム医療を行っています。
診療内容
検診で異常を指摘された方へ
検診マンモグラフィのカテゴリーは1から5まであり、カテゴリー3以上が要精密検査となります。主な所見は以下の通りです。当院でも二次精密検査を行っています。
- 腫瘤…乳房内で他の細胞とは異なる組織の塊がみられます。嚢胞などの良性の場合もありますが、悪性の場合もあるので詳しい検査が必要です。
- 局所非対称陰影…平たく言うと「左右差」で、腫瘤といえるほどの濃度や境界をもたない左右非対称の陰影のことです。腫瘍との鑑別のために精密検査が必要になる場合があります。
- 石灰化…乳房内部にカルシウムが沈着したと考えられる部分がみられます。石灰化部分が腫瘍を示すわけではないのですが、悪性を疑われる場合があります。超音波検査では所見がない場合、ステレオガイド下マンモトーム検査が有用です(当院でも行っています)。
超音波検査でもマンモグラフィ同様にカテゴリー分類にて判断します。
手術
手術の方法は大きく分けて「乳房温存手術」と「乳房全切除術」があります。
- 乳房温存手術
乳房を部分的に切除し、がんを取り除く方法です。術後に残った乳房に放射線を当てることで残った乳房からの再発を予防します。
- 乳房全切除術(全摘術)
胸筋を残してすべての乳房を切除します。
- リンパ節手術(乳がん手術と同時に行います)
手術前の検査でリンパ節に転移があると判断した場合には腋窩リンパ節郭清を行います。手術前の検査でリンパ節に転移がないと判断した場合は、センチネルリンパ節生検(乳房内から乳がん細胞が最初にたどりつくリンパ節を摘出して検査する)を行います。
- 乳房再建手術
乳房再建には、「自家組織(自分のからだの一部)を用いた再建法」と「人工乳房(インプラント)で行う再建法」があります。
また行う時期も「乳がんの切除術と同時に行う一次再建」と「切除術後期間をおいて行う二次再建」があります。
当院は乳房再建の実施施設認定を受けており、愛知医科大学形成外科の医師と連携して治療にあたっています。
薬物療法
薬物療法は、初期治療(術前,術後の治療)と、遠隔転移治療で、目的が異なります。
- 初期治療:再発率・死亡率を下げるために行います。
乳がんはホルモン感受性の有無(女性ホルモンの影響を受けるかどうか)、HER2タンパクが過剰に発現しているかどうかで4つのタイプに分けられます(サブタイプと呼びます)。
ある程度以上の大きさの浸潤癌の場合は再発のリスクがあると考えられるため、以下の治療が推奨されています。
《ホルモン陽性HER2陰性(ルミナールタイプ)》
ホルモン療法を行います。進行している場合や悪性度が高い場合は化学療法も行います
7.8割はこのタイプです。
《ホルモン陰性HER2陰性(トリプルネガティブ)》
化学療法を行います。
《HER2陽性》
抗HER2療法+化学療法を行います。ホルモン陽性の場合はホルモン療法も行います。
ホルモン陽性 | ホルモン陰性 | |
HER2陽性 | ホルモン療法+抗HER2療法+化学療法 | 抗HER2療法+化学療法 |
HER2陰性 | ホルモン療法±化学療法 | 化学療法 |
放射線治療
乳房温存手術を行った場合の残った乳房や、脇の下のリンパ節に転移があった場合のそのまわりのリンパ節や胸壁からの再発を予防するために行います。放射線治療科にて行います。
乳がんと遺伝
乳がんのうち7-10%は遺伝が大きく関係している「遺伝性乳がん」といわれています。乳がんと遺伝について文京だより第6号にまとめてありますので詳しくはそちらをご覧ください。当院でも遺伝子検査を行うことができます。
乳がん診療は日進月歩で、新しい診断法や治療法がどんどん生み出されています。治療の選択肢が増えることは非常に喜ばしいことではありますが、一方で専門医でないと把握できないくらいに複雑化しています。わからないことがあれば、遠慮なくご質問ください。何度でもわかりやすくご説明します。
診療実績
2021年 | 2022年 | 2023年 | |
乳がん | 143 | 133 | 146 |
乳房その他 | 6 | 3 | 7 |
甲状腺・副甲状腺 | 10 | 6 | 3 |
副腎 | 2 | 4 | 3 |
診療コラム
ドクターインタビュー
スタッフ紹介
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乳腺・内分泌外科部長
中西 賢一 なかにし けんいち
資格 日本外科学会専門医 日本乳癌学会専門医 日本がん治療認定医機構がん治療認定医 内分泌外科専門医 緩和ケア研修会修了 名古屋大学医学部臨床講師 専門分野 乳腺・内分泌外科全般 -
非常勤医師
大西 英二 おおにし えいじ
専門分野 乳腺・内分泌外科全般
外来担当医表
診察室 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 |
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午前10 | 大西 (予約) |
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午前12 | 中西 | 中西 | |||
午後12 | 中西 | 中西 | 中西 |